ペパ研 研究会 運用技術

マルチメディア、分散、協調とモバイル(DICOMO2018)シンポジウムで2件の発表をしました

ペパ研 研究会 運用技術

チーフエンジニア兼主席研究員のまつもとりー(@matsumotory) です。2018年7月4日から3日間に渡って開催された、マルチメディア、分散、協調とモバイル(DICOMO2018)シンポジウムで、ペパボ研究所から2件の発表を行いましたので、論文(研究会予稿)とスライドと共にそれぞれの発表者が紹介します。


精緻に制御可能な恒常性のある高集積マルチアカウント型のメール基盤

本発表では、高集積マルチアカウント型のメール送受信システムを安定化するために、精緻にセッション情報を解析でき、適応的にメールの流量制御やリソース制御を行えるメール基盤の設計と実装について述べました。 メールアドレスのドメイン単位でメールの流量を制限するために、メールに関するセッションを受信した時点で、リアクティブに該当ドメイン専用のメールサーバプロセスをLinuxコンテナ上で一定期間起動させ処理を行います。

メール流量やリソース使用量の精緻な制御の実現と同時に、高集積マルチアカウント型のメールシステムを実現するために、我々が研究開発している、実行環境の変化に素早く適応できる恒常性を持つシステムアーキテクチャのFastContainerを応用しました。 メールの流量やリソース使用量が一時的に増加した場合には、FastContainerによって、メールサーバプロセスが起動しているコンテナをリアクティブにスケーリングすることによって対応します。 また、実行環境の状態変化に素早く対応できるアーキテクチャを利用して、高集積にアカウントを収容するために、セッションに応じてリソースの割り当てやコンテナの状態変更を反応的に行い、リソース使用量の効率化を図ります。 このアーキテクチャによって、ドメイン単位でメールサーバプロセスを立ち上げることにより単一のドメインとして処理されるメールに対して精緻に制御可能にしつつ、全体としては、予測の難しいメール流量やリソース使用量の変化に応じて素早くシステムを変更できるようになります。

さらに、セッション情報をセッション管理データベースに保存し、メールの送受信時にセッション情報を解析できるようにもする予定です。 メール送受信の流量を制御したい場合には、セッション情報の統計値を活用したり、システム管理者がセッションデータに基づいて判断したりすることにより、メールサーバソフトウェアの制限設定とLinuxコンテナのリソース制御手法を組み合わせて実現します。 また、Sendmailのメールフィルタープラグイン機能であるMilterプロトコルを活用して既存のSMTPサーバソフトウェアであるPostfixの制限手法を拡張したり、IMAPサーバソフトウェアのDovecotの拡張プラグインを実装することで、SMTP/IMAPコマンド単位やメールアドレス単位でメール流量やリソース使用量を精緻に制限できるようになります。

今後、引き続き必要機能の実装を行いながら、メールの流量変化に想定通り耐えられるかの検証、リソース利用効率の定量的評価などを進めていく予定です。 また、保存したセッションデータを活用することにより、統計的手法や機械学習を使ってコンピュータが適応的に流量制御するための研究も行っていきます。

研究会予稿

スライド


なめらかなシステムを目指して

本発表では、ペパボ研究所のビジョンである「なめらかなシステム」について、先行研究を検討する中からその輪郭を素描しました。

自律適応的な情報システムが人間にとって有用であるためには、(1)利用者の主観的な判断基準や選好等の利用者それぞれに固有のコンテキストを,システムの作動に際して織り込む必要があります。また、(2)そのような利用者のコンテキストはシステム利用に先立って明確に定まっているとは限らず、むしろ利用者と情報システムとのコミュニケーションを通じて徐々に形成されていくという前提で、システムを構想する必要があります。

ユビキタスコンピューティングを背景に登場したコンテキスト・アウェアネスは(1)を課題とし、コンテキストの定義や、我々のシステムの望ましい作動方法について明らかにしています。また、基礎情報学は(2)に対して、利用者と情報システムとが互いに影響を及ぼし合う総体として複合的にシステムを捉える視点を提供しています。さらには、事後的なコンテキストの創出が、生物の概念把握と似たものであるという示唆をももたらします。上記の検討を踏まえ、我々は新しいシステム観としての「なめらかなシステム」を提案します。

なめらかなシステムとは、情報システムのことをいうのみならず、互いに影響を及ぼし合う継続的な関係にある利用者(ユーザーおよび開発運用者)と情報システムとからなる総体としてのシステムであり、以下の要件を満たします:

  1. 利用者と情報システムとが継続的な関係を取り持つ過程において、利用者それぞれに固有のコンテキストを見出したり、新たなコンテキストを創出したりできること
  2. 要件1.を、利用者による明示的な操作を課すことなく実現できること
  3. 要件1.および2.によって得られたコンテキストに基づき、情報システムが利用者に対して最適なサービスを自動的に提供できること

このシステム観を、実際のシステムとして実現するために我々が行っている、EC領域における「なめらかなマッチング」と、Webホスティングにおける研究とを具体例として紹介しました。

今後、自律適応的なシステムが増えていく中で、必ずしも人間に理解可能であるとは限らない「概念」が創出されていくと我々は考えています。人間と機械との間を取り持ちながら、より有用なシステムを作り出していくためにも、提案するシステム観を着実に実現させていくべく研究開発を続けるつもりです。

研究会予稿

スライド


まとめ

DICOMO2018では、幅広い研究テーマに沿ってペパボ研究所から2つの発表を行いました。今後も、第43回インターネットと運用技術研究会(IOT43)が長崎で開催されますので、エンジニアの皆様もぜひご参加ください。


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