ペパボ研究所 研究員の渡辺(@ae14watanabe)です。 2022年9月13日〜15日に行われたFIT2022にて、「協働的仮説形成システムによるECサイト運営のデータ駆動型意思決定支援」というタイトルで発表しました。 今回は発表の概要および論文や発表資料についてご紹介したいと思います。
発表概要
EC領域において、データ駆動型意思決定(Data-Driven Decision Making: DDDM)が近年注目を集めています1。 ECサイトの運営者は売り上げ向上を目的として、施策の実施の可否などについて意思決定を日々行なっています。 この意思決定の質を向上させる手段として有力視されているのがDDDMです。 ECサイトの運営ではユーザや商品についてのデータが日々蓄積されていきますが、DDDMではこのようなデータから意思決定に役立つ知識を得ることを目指します。
DDDMを効果的に実行するには、データからの仮説検証を効率的に繰り返す必要があります。 Sachaらの知識生成モデル2によると、データから知識を得るには、データを分析して得た気づきとドメイン知識を元に人間が仮説を立て、その仮説を確かめるために更なるデータ分析を行う、という仮説検証を繰り返す必要があります。 すなわち、良い知識を得るためには、この仮説検証を効率的に繰り返し、知識が得られる見込みを高めることが重要です。
しかしながら、データ分析スキルに乏しい運営者にとって、この仮説検証は容易ではありません。 仮説検証の過程ではデータを分析する必要がありますが、これにはデータ分析のツールを活用するという専門的なスキルが必要となり、この習得が運営者にとって大きな負担となっています3。
そこで本研究では、運営者がデータ分析スキルに乏しい場合でも効率的に仮説検証を繰り返せることを目指し、データ分析システムと運営者の協働による仮説検証を実現するシステムを提案します。 この協働による仮説検証では、システムはスキルが問われるデータ分析と、その結果を元にした仮説の推論を担当します。 一方で、運営者は自身のドメイン知識を元にした仮説の立案を担当します。 二者がこの仮説について対話することで、仮説検証を繰り返し仮説の確度を高めていきます。 このような協働を行うためには ①両者が取り扱える仮説をどのように定義するか ②仮説を推論・提示できるシステムをどのように構築するか、という課題があります。 提案システムではそれぞれ ①ECサイトにおけるユーザの行動ログを元に定義する ②機械学習が仮説を推論し、その結果を運営者が対話的に確認できる視覚的インタフェースを実装する、という形で解決しています。 実際にECサイトのデータに対して提案システムを適用し、仮説検証の有効性や効率について定性評価を行いました。 その結果、②の方式全体は仮説検証の効率化に寄与できている一方で、機械学習の推論部分に改善の余地があるという考察に至りました。
論文
発表資料
発表を終えて
今回の発表を通して、研究のビジョンが明確になった実感があります。 今年の3月に行った発表ではシステムの実装に焦点を当てていましたが、今回の発表ではそのシステムを含めた支援の枠組みを明確にすることができました。 その結果、発表を聴講していただいた方々にも枠組みが伝わったようで、その具体化のための今後の取り組みについてディスカッションすることができました。 有意義な時間を頂けて非常にありがたかったです。 この経験を踏まえて、これから分析システムの改善や評価を進めていこうと考えております。
また、FIT2022の他の発表も聴講させていただき、今後の研究の参考になる情報や刺激を得ることができました。 一般セッションが大変刺激になったのはもちろんのこと、理研AIPの杉山将先生によるご講演やトップカンファレンスにアクセプトされた研究の紹介セッションなど、機械学習に対する見識が広がるお話を聴講することができました。 今回はハイブリッド開催ということで、運営された皆さんには相当なご苦労があったと思います。 このような場を設けていただき非常に感謝しております。 ありがとうございました。
久々のオフライン学会参加を楽しむ筆者
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